業務上、戦前~戦後史に関する資料を読むことが多くて、しかし社会のダークサイドにふれたものが少ないため、腑に落ちない部分があるのが殆どなんですが、この連休にようやく読む時間がとれた増田俊也の「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」は社会の表裏、人生の明暗が描かれた見事なドキュメンタリーでした。
僕は総合格闘技の登場に胸を踊らせたUWF世代なので、90年代の「最強格闘技論争」が自分にしっくりしないまま終わったのでモヤモヤしていたんですが、この本を読むことで(そして著者がこの本を書く理由になったグレイシー柔術の登場で)そのモヤモヤは全て解消してスッキリしました。
僕たちが総合格闘技に追い求めていた答えというのは、結局GHQや講道館の生き残り戦略・派閥構想により消えていった、戦前までの日本の武道にあったようです。皮肉的にいうと、90年頃からここまでの20年間、僕たち世代は自分探しの物語の中にいたようです。
タイトルからすると格闘技マニア向けの本のようですが、そうではなくて、木村政彦と師匠の牛島辰熊を中心に、当時の政治思想と武道が一体となり戦前から戦後の期間、武道家達が必死に生きて、また苦しむ当時の日本を描いた本です。木村政彦を敬愛した大山倍達、そして力でのし上がった力道山についてもこの本で初めて知る事が多く驚きました。
21世紀の日本・世界にもっとも必要なのは相手をそのまま受け入れること、相手を認めること、赦すことだと思います。日本のみならず、移民排斥などを進めようとしている欧州人にも読んで欲しいです。